LINE 公式アカウントでお客様ごとに配信を出し分けたい――そう考えて調べ始めると、必ず「 ID 連携 」という言葉に行き当たります。支援会社の提案も、業界の記事も、ほぼ例外なく「 まず ID 連携を 」と言います。
私は2020年に初代 LINE Frontliner( LINE認定講師 )に選ばれ、また2017年から EC 向けの LINE 配信ツールを提供してきた立場として、数百社の EC 担当者から ID 連携の相談を受けてきました。その経験から先に結論を書きます。ID 連携は「 できる 」施策ですが、「 成果につながる 」施策になるかは、連携率次第です。そして連携率は、ほとんどの企業で想像より低くとどまります。
この記事では、LINE ID 連携の仕組み・やり方・メリット・デメリットを整理したうえで、「 連携率の壁 」をどう越えるかを、実際の導入企業の数字とともに解説します。
LINE ID 連携とは、LINE 公式アカウントの友だち( LINE のユーザー ID )と、自社 EC サイトの会員 ID( 会員番号・メールアドレスなど )を紐づけることです。紐づけが完了すると、EC サイト側にある情報――購買履歴、会員ランク、閲覧履歴、お気に入り――をもとに、そのお客様の LINE へ個別にメッセージを送れるようになります。
ここで大事なのは、ID 連携は「 企業が勝手にできる 」ものではない点です。個人情報保護の観点から、お客様本人が LINE 上で「 連携する 」操作をして初めて成立します。つまり ID 連携は技術の問題である前に、「 お客様にその手間をかけてもらえるか 」という UX の問題です。
実務でよく使われるのは次の3方式です。いずれも「 LINE ログイン 」の仕組みを使い、お客様が LINE アカウントで EC サイトにログインした瞬間に、両者の ID を結びつけます。
友だち追加のあいさつメッセージに「 会員連携はこちら 」のリンクを置き、タップ→LINE ログイン→EC の会員ログインで紐づけます。最も一般的な方式ですが、あいさつメッセージを読んでリンクを押し、さらに EC の ID・パスワードを入力する、という3ステップが必要です。
リッチメニューに「 会員連携 」ボタンを常設し、いつでも連携できるようにします。①の取りこぼしを拾えますが、能動的に押してもらう必要があるため連携率の底上げにはなりにくいのが実情です。
EC の会員登録・ログイン自体を LINE ログインで行えるようにし、登録と同時に連携を完了させる方式です。新規会員には効果的ですが、既存会員は「 一度 LINE でログインし直す 」必要があり、既存会員の連携率はここでも伸び悩みます。
どの方式でも、技術的には「 LINE Developers での LINE ログインチャネル作成 」「 Messaging API チャネル 」「 EC サイト側の連携画面・DB 改修 」が必要です。ツール費用に加えて EC 側の開発費が発生する点は、後述のコストの話で重要になります。
購買データに基づく配信ができる:直近購入者への関連商品、休眠会員の掘り起こし、会員ランク別の特典など、CRM らしい配信が組めます。
通数を最適化できる:LINE 公式アカウントは従量課金( 通数課金 )のため、「 買いそうな人だけに送る 」ことがそのままコスト削減になります。
オムニチャネルの土台になる:会員証機能、店舗購買との統合など、アプリで行っていた役割を LINE に寄せられます。
これらは本物のメリットです。だからこそ、多くの企業が「 まず ID 連携 」と考えるのは自然です。問題は、その先にあります。
ID 連携を前提にした個別配信は、お客様に3つの手続きを求めます。友だち追加 → 会員登録( またはログイン ) → ID 連携。LINE 友だちになるのは訪問者の 0.5% 以下、そこから会員登録で 50% 以上、ID 連携で 80% 以上が離脱します。個別配信の対象になるのは、訪問者の 0.05% 程度( 2,000 人に 1 人 )です。
100%
訪問者の 0.5% 以下
50% 以上が離脱
80% 以上が離脱
私が支援してきた企業の担当者に「 通販の ID と LINE ID の連携をしていますか? 」と聞くと、通販の担当者自身でさえ、ほとんどの方が「 していない 」と答えます。ID 連携してまでその企業の情報が欲しい、というお客様は多くありません。お客様にとって LINE は「 情報を軽く受け取る場所 」であり、住所や会員番号を伴う手続きは購入時( 購入接点 )に済ませたいものだからです。
そもそも構造がおかしいのです。購入時にお客様が入力するのは、配送に必要な住所と決済情報です。ところが ID 連携は「 情報を受け取るだけ 」のために、友だち追加・会員登録・連携操作という購入時より重いコミュニケーションをお客様に強いています。SNS では「 フォロー 」1つで情報が届く時代に、EC だけが「 まず会員登録を 」と言い続けている。EC サイトは「 買う場所 」であると同時に、お客様が商品を見て・調べて・比べる「 情報接点 」としてもっと機能させるべきで、その入口が ID 連携であってはいけない、というのが私の考えです。
デメリットは連携率だけではありません。
費用:ID 連携型ツールはツール費用に加え、EC 側の繋ぎ込み開発が必要です。コスメ企業様が検討した際は、見積もりの合計が「 初期費用だけで数百万円規模 」でした。
運用負荷:MA ツールと連携して細かなシナリオを回すには、学習コストと日々の運用工数がかかります。コスメ企業様は「 大きな費用をかけても使いこなせそうにない 」と判断し、方針転換しています。
配信を控える悪循環:連携母数が少ないまま通数課金が気になり、配信を減らし、結果として CRM の主戦場がアプリやメルマガに戻ってしまう――EC 支援の専門家からも「 かけた費用と作業コストを回収できているケースを見たことがない 」という指摘があります。
では、ID 連携をしなければ個別配信はできないのでしょうか。答えは「 いいえ 」です。発想を変えれば、会員登録も ID 連携も求めずに、お客様が欲しい情報だけを届けることができます。
ポイントは「 お客様が欲しい情報 」を、会員データから推測するのではなく、お客様自身の行動で教えてもらうことです。EC サイト上には、すでにその行動があります。
売り切れ商品の「 再入荷お知らせ 」を押す
気になる商品を「 お気に入り 」に入れる
好きなブランドを「 フォロー 」する
カートに商品を入れる
これらのボタンを押した瞬間に、LINE の友だち追加と「 何の情報が欲しいか 」の登録が同時に完了する仕組みにすれば、名前もメールアドレスも会員番号も不要です。初回は LINE の認証を許可するだけの2タップ、2回目以降は1タップ。SNS で「 フォロー 」するのと同じ軽さです。私たちはこの手法を「 非会員 CRM 」と呼び、特許を取得しています( 特許第7550480号ほか )。
お客様の行動をどう配信の絞り込み条件に変えるか、一斉配信やアンケート型との違いも含めた具体的なやり方は LINE セグメント配信とは( やり方3種・費用・成果比較 ) にまとめています。
そもそも、日本国民のほぼ全員が LINE を持っています。それなのに、わざわざ LINE で友だちになってもらい、簡易登録をしてもらい、さらに ID 連携までしてもらう――この形は、せっかく広い間口を自ら一気に狭めています。SNS で「 フォロー 」するのと同じ感覚で、簡単に登録できるようにすべきです。どれだけ違うかは、実際の画面の流れを見比べるのが一番早いので、下に 1 画面ずつ並べたモックを置きました。
誤解のないように書いておくと、ID 連携が不要だと言っているのではありません。順番の話です。まずは会員登録も ID 連携も求めずに「 必要な配信をお届けできる関係 」になる。再入荷や値下げの知らせが届き、実際に役に立つ体験を重ねたお客様の方が、結果的に購入してくれる確率は上がります。そして会員登録は、購入するときにされるものです。情報を受け取る入口で登録を求めるのではなく、購入の場面で自然に会員になってもらい、その後に ID 連携で配信の精度を上げていく。この順番の方が、母数も成果も大きくなる、というのが私たちの考えです。
実際にこの方式を選んだ弊社クライアントの数字を挙げます( 社名は伏せ、業種で表記しています )。
コスメ企業様:ID 連携型は初期費用だけで数百万円規模だったのに対し、ID 連携不要のワズアップ!は初期10万円・月額3万円、EC 側の開発費なし。カゴ落ちリマインドは CVR 11%・ROAS 1,600%。
アパレル企業様:ID 連携を伴う大掛かりなシステム改修を見送り、HTML タグの埋め込みだけで導入。再入荷リクエストは CVR 平均8%・ROAS 7,000〜10,000%、LINE 経由売上の65%がワズアップ!経由に。
コスメ企業様:MA ツールへの ID 連携を「 オーバースペック 」と判断して転換。カゴ落ちリマインド CVR 約10%・ROAS 約5,000%。
詳しくは 「 ID 連携してくれない 」課題を解決した導入事例 にまとめています。
除外の開発はしないのが定石です。ID 連携している人をワズアップ!の配信から除外するには開発費がかかるため、9割以上の導入企業は「 ワズアップ!にあるシナリオ( 再入荷・カゴ落ち・値下げ・新着 )はワズアップ!、ないシナリオ( 会員ランク別など )は MA 」とシナリオで区切っています。開発費ゼロで分母が広がります。
それでも出し分けたい場合は、ワズアップ!のユーザー ID を渡して MA 側で ID 連携済みの人を除外する方法があります( アパレル企業様は ID 連携者は MA、未連携者はワズアップ!から配信 )。
ID 自動連携( オプション )という選択肢もあります。お客様に連携作業をさせず、ワズアップ!の機能を使ったあとに EC へログインした時点で自動的に連携します。「 連携率の壁 」を、お客様の手間を増やさずに越える方法です。
クーポンで友だちを集めると「 クーポン目的で反応しない層 」が増えます。「 この情報が欲しい 」から友だちになる導線の方がブロックされにくく、アパレル企業様では再入荷ボタン経由で友だち追加が1日20〜40人→70〜100人になりました。
ID 連携を全否定するつもりはありません。優先順位の問題です。私の判断基準は次の通りです。
友だち数が数十万規模で、EC 会員比率が高い:ID 連携で母数が育つ余地があるので、検討の価値があります。
友だち数が数万以下、または店頭からの友だちが多い:連携率の壁が厚く、費用対効果が合いにくい。まず ID 連携不要の方式で「 LINE 経由売上 」と「 友だち数 」を育てるのが先です。
運用担当が1〜2名:MA 連携の運用は回りません。自動配信を主役にしてください。
実際、アパレル企業様は「 まずワズアップ!で母数を作り、そのうえで ID 連携に進む 」順序を取り、担当1名の体制で LINE 売上の約30%をワズアップ!経由が占めるまで育ててから、ID 連携と併用に進みました。順序を逆にしないことが、失敗しないコツです。
LINE ID 連携=LINE の友だちと EC の会員 ID を、お客様本人の操作で紐づけること。購買データでの配信が可能になる。
デメリットは「 連携率の壁 」。友だち追加( 訪問者の 0.5% 以下 )→会員登録( 50% 以上が離脱 )→ID 連携( 80% 以上が離脱 )で、対象は訪問者の 0.05% 程度に。費用は EC 側開発を含めて数百万円規模になることも。
再入荷・お気に入り・ブランドフォローなどの行動をそのまま配信データにすれば、会員登録も ID 連携も不要で個別配信ができる( 非会員 CRM )。
友だち数と会員比率が育ってから ID 連携を「 併用 」するのが、現実的な順序。
関連:セグメント配信の導入事例/再入荷通知の導入事例/非会員 CRM とは何か( 解説 )/LINE セグメント配信とは( 解説 )
LINE 公式アカウントの友だち( LINE ユーザー ID )と、自社 EC サイトの会員 ID( 会員番号やメールアドレス )を紐づけることです。お客様本人が LINE ログインなどで「 連携する 」操作をして初めて成立し、紐づけ後は購買履歴や会員ランクに基づく個別配信ができます。
LINE 友だちになるのは EC 訪問者の 0.5% 以下。そこから会員登録・ログインで 50% 以上、ID 連携で 80% 以上が離脱するため、個別配信の対象は訪問者の 0.05% 程度( 2,000 人に 1 人 )にとどまるのが実態です。通販担当者自身でも「 連携している 」と答える人はほとんどいません。
できます。EC サイト上の「 再入荷お知らせ 」「 お気に入り 」「 ブランドをフォロー 」などのボタンを押した行動をそのまま配信条件にすれば、会員登録も ID 連携も不要です( 非会員 CRM・特許第7550480号 )。コスメ企業様は数百万円規模の ID 連携型に対し初期10万円・月額3万円で導入し、カゴ落ちリマインド CVR 11%を達成しています。