はじめに
EC で LINE 公式アカウントを運用している企業の多くは、友だちを集め、週に 1〜2 回クーポンやセール情報を配信し、反応率を見る——多くの現場がこの形です。ただ、この運用には天井があります。全員に同じ情報を送るので反応率は上がらず、友だちが増えるほど配信費用だけが膨らむ。2026 年 10 月の料金改定で、その構造はさらに厳しくなりました。
そこで通数を節約しつつ、効果を高めるために多くの企業が取り組むのは LINE のセグメント配信ですが、ここで LINE 本来の強みを捨ててしまう選択をする企業が多く存在します。
LINE はもともと、日本国民のほぼ全員が使っている情報接点です。SNS のフォローと同じで、気になったら軽く受け取り始められるのが本来の姿でした。ところが EC サイトに来た途端、会員登録や ID 連携が必要になる。情報を受け取るだけなのに、いつの間にか購入と同じ重さの手続きを求めている——これが、多くの EC で起きていることです。
購入するときに会員登録をお願いするのは自然です。住所も決済も必要だからです。しかし「 再入荷したら教えてほしい 」だけのお客様に、購入と同じ手続きを求める理由はありません。情報接点としての LINE の軽さを取り戻すこと。これが EC の LINE 活用でいちばん重要です。
この記事では、EC で使える LINE 施策の全体像、それぞれの効果、費用、そして何から始めるべきかを、弊社クライアントの実測値とともに整理します。
01
EC サイトにとっての LINE は、大きく 2 つの役割を持ちます。役割ごとに、必要な仕組みも測る指標も違います。
売り切れていた、迷っていた、まだ買う時期ではなかった——そういうお客様と、離脱後もつながっておくための接点です。EC 訪問者の大多数は非会員なので、メールアドレスを持っていない相手とつながれることが LINE の最大の価値になります。ここが機能すると、これまで「 アクセス数 」としか記録されていなかった人が、配信できる相手に変わります。
でも多くの EC がこの段階で会員登録やログイン、ID連携を求めることで、「 情報が欲しいだけなのに面倒 」 と感じて、多くのお客様は離脱します。情報接点は、購入接点より軽くなければ機能しません。役割①が成立していないと、このあとの役割②・③も動かないので、最初に見直すべきはここです。
再入荷した、値下がりした、カートに入れたままになっている——お客様の側に買う理由が生まれた瞬間に通知する役割です。EC の売上改善で最も効くのはここで、送るタイミングが決まっているため自動化できます。
02
実際に EC で使われている施策を、効果の大きい順に並べます。数字はいずれも弊社クライアントの実測値です。
| 施策 | 送るきっかけ | 効果の目安 |
|---|---|---|
| 再入荷通知 | 売り切れ商品が再入荷した | CVR はサイト平均の 4〜5 倍。滞在時間は約 4 割短いのに購入率は高い |
| カゴ落ちリマインド | カートに入れたまま離脱した | CVR 5〜11%( メールは 1.2〜1.5% )。ROAS 1,600〜5,000% |
| お気に入りの値下げ・在庫わずか通知 | 登録商品が値下がり/残りわずかになった | 買う理由が生まれた瞬間に届くため、通常配信より高い反応 |
| お気に入りブランド別の新着配信 | 登録ブランドに新商品が入った | 全体配信比で CVR 1.6 倍・コンバージョン数 3 倍以上 |
| 閲覧商品リマインド | 同じ商品を複数回見た | 検討中の人に絞れるため、通数あたりの効率が高い |
| 店舗の入荷通知 | 指定店舗に在庫が入った | EC だけでなく来店にもつながる。店舗在庫との連携が必要 |
| 商品検索・店舗検索( リプライ ) | お客様が LINE 上で操作した | 配信通数の課金対象外。費用をかけずに売上接点を増やせる |
| 全体配信( セール・キャンペーン ) | 企業側の都合 | CVR 1〜2% 程度。通数を最も使うので、回数を絞るのが前提 |
表を見て分かるとおり、成果が出ているのは「 企業側の都合で送る配信 」ではなく「 お客様の側に理由が生まれた瞬間に送る配信 」です。そして後者は、通数も少なくて済みます。
03
ここまでの施策は、どれも「 このお客様が何を欲しがっているか 」を知っていることが前提です。そして、その知り方によって届く人数が 100 倍以上変わります。
会員登録と LINE の ID 連携を前提にすると、LINE 友だちになるのは EC 訪問者の 0.5% 以下、そこから会員登録で 50% 以上、ID 連携でさらに 80% 以上が離脱し、個別に配信できるのは訪問者の 0.05% 程度( 2,000 人に 1 人 )です。どれだけ良い施策を並べても、この母数では売上のインパクトが出ません。
一方、EC サイト上のボタンを押すだけで「 何の情報が欲しいか 」の登録が完了する方式なら、非会員を含むサイト訪問者全体が対象になります。再入荷ボタン経由で導入前と比べ2倍のペースで友だちが増え続けている弊社クライアントも多数あります。
いま ID 連携を前提にした施策を検討しているなら、まず自社の会員のうち何人が連携を済ませているかを数えてみてください。その人数が、その施策の上限です。詳しくは LINE ID 連携とは?連携率の壁の越え方、方式ごとの違いは LINE CRM ツールの選び方 にまとめています。
04
順番を間違えると、労力の割に成果が出ません。ID 連携は最後で構いません。まず情報接点としての母数を作り、配信を自動化し、必要になってから連携を考える——この順番が最短です。
月間のサイト訪問者数( UU )と、LINE 友だち数。この 2 つだけで十分です。訪問者に対して友だちが 1% に満たないなら、配信の中身を考える前に登録の入口を見直すべきだと分かります。ID 連携率はこの段階で気にしなくて構いません。連携を前提にすると、そこが天井になってしまうからです。
最初にやるべきは、会員登録も ID 連携も求めずに「 欲しい情報 」を登録してもらえる入口を用意することです。商品ページの「 再入荷お知らせ 」「 お気に入り 」ボタンを押すだけで、友だち追加と登録が同時に完了する形にします。お客様は 2 タップ、EC 側はタグの埋め込みだけ。
ここで非会員を含むサイト訪問者全体が 「 いいね 」感覚の 簡単登録ですぐに配信対象になるので、母数が一気に広がります。最初の施策は再入荷通知かカゴ落ちリマインドのどちらか 1 つで十分です。どちらも買う意思がはっきりしているお客様に届くので、最短で成果が出ます。最初から全機能を入れると管理画面が複雑になり、運用が止まります。
自動配信が動き始めたら、全体配信の回数を落とします。週 2 回送っていた企業なら、全体配信を週 1 回にして、空いた通数を自動配信に回すのが標準的な移行です。売上を落とさずに通数を減らせます。
ここまでで、情報接点としての LINE は機能しています。そのうえで購買履歴を使った配信( 休眠会員の掘り起こし、会員ランク別の案内など )をやりたくなったときに、初めて ID 連携を検討します。
順番が逆だと、連携率という天井にぶつかったまま施策が進みません。先に母数を作っておけば、連携は「 一部のお客様に追加でお願いするもの 」で済みます。会員登録も同じで、購入するときにされるものです。情報を受け取る入口で求める必要はありません。
05
友だち集めを目的にしてしまう。クーポンで集めた友だちは購入につながりにくく、通数課金の負担だけが増えます。インセンティブで獲得した友だちや ID 連携者は成果が出づらいので、「 何人集めたか 」ではなく「 何を欲しがっている人が何人いるか 」で見てください。
ID 連携率を上げることに投資する。クーポンなどで一時的に連携率は上がりますが、費用をかけ続けないと止まります。連携が構造的に上限になる設計そのものを見直すほうが、結果的に早いことが多いです。
まとめ
EC における LINE 活用において、成果が出るのは「 企業側の都合で送る配信 」ではなく「 お客様の側に買う理由が生まれた瞬間に送る配信 」です。
そして、そのすべての前提になるのが情報接点としての軽さです。LINE は本来、日本国民のほぼ全員が持ち、SNS のフォローと同じ感覚で受け取り始められる接点でしたが、EC サイトで会員登録や ID 連携を挟んだ瞬間に、それは購入と同じ重さの手続きに変わり、間口が一気に狭まります。会員登録は購入するときにされるもの。情報を受け取る入口で求めるものではありません。
LINE の EC 活用のコツは、お客様に必要な配信をいかに伸ばすことができるかに尽きます。それを入口で会員登録と ID 連携を求める設計のままでは、対象は訪問者の 0.05% 程度。まず登録の入口を軽くして母数を広げ、再入荷通知かカゴ落ちリマインドから始め、全体配信を減らしていく——この順番が、いちばん確実です。
関連:LINE CRM ツールの選び方/LINE ID 連携とは?/LINE セグメント配信とは?/カゴ落ちとは?対策 7 選/2026 年 10 月の料金改定/導入事例一覧
月間の訪問者数( UU )と LINE 友だち数を確認したうえで、会員登録も ID 連携も求めないワンタップ型の入口を用意し、再入荷通知かカゴ落ちリマインドの 1 施策から始めるのが定石です。ID 連携は最後で構いません。先に連携を前提にすると、連携率がそのまま施策の天井になります。最初から全機能を入れると管理画面が複雑になり運用が止まるので、2〜3 機能に絞ってください。
欲しい人にだけ届く配信に切り替えると、配信の回数を増やしても通数は減ります。全体配信を月 2 回に減らしてセグメント配信を月 4 回にした企業では、同じ内容を全体配信した場合と比べて配信数が約 65% に下がりました。商品検索などお客様の操作に応答するメッセージは、そもそも追加メッセージの課金対象外です。
LINE は本来、SNS のフォローと同じ感覚で受け取り始められる情報接点です。「 再入荷したら教えてほしい 」だけのお客様に、購入と同じ手続きを求めると大半が離脱します。会員登録は住所や決済が必要になる購入のときにされるもので、情報を受け取る入口で求めるものではありません。入口を軽くして母数を広げ、役に立つ情報を受け取る体験を重ねたお客様のほうが、結果的に購入してくれる確率は上がります。